
「絞りもシャッタースピードもISOも、だいぶ慣れてきたぞ」──そんなあなたにこそ知ってほしい、カメラの“本質”の話があります。
最新のカメラは高機能で便利なものばかり。でも実は、カメラがやっていることって、数百年前からほとんど変わっていないんです。今回はちょっとだけ歴史をたどりながら、カメラという装置の根っこにある“シンプルで深い仕組み”を見てみましょう。
カメラの正体、それは「光を集めて焼きつける箱」
カメラの正体を一言で表すと、「光を集めて焼きつける箱」です。英語の「Camera」は、ラテン語の「カメラ・オブスクラ(暗い部屋)」に由来しています。つまり、カメラはもともと「暗い箱」のこと。
その箱の中に小さな穴やレンズがあり、外の光が差し込んで像を結ぶ。さらに、そこに感光性のある素材(フィルムやセンサー)を置けば、光の強さに応じてその像を記録できる──この仕組みは、実は昔から変わっていません。
この原理は、人間の目の構造とも似ています。瞳孔は絞り、網膜はセンサーの役割です。つまり、カメラは“人工の目”とでも言える装置。仕組みを知ると、実はすごくアナログな発明だということが見えてきます。
ピンホールカメラから始まった
一番原始的なカメラは、ピンホールカメラです。これはレンズすら持たない、ただの箱。片方に小さな穴が開いていて、反対側の内壁に像が映し出されます。たったそれだけで、ちゃんと外の景色が映る。まるで手品のような現象ですが、これは物理の法則に従った立派な光学現象。
実際にピンホールカメラを工作してみるとよく分かるのですが、絞りが小さいほどくっきりと像が結ばれます。逆に、穴が大きすぎるとぼやけてしまう。これこそまさに「絞り」の考え方ですよね。
さらに、ピントも重要です。穴からどれくらい離れた位置に像が結ばれるか──これは現代のカメラでいう「焦点距離」とほぼ同じ考え方です。
写るようになった時代=「記録できるようになった」だけ
では、いつから「写真」が撮れるようになったのか。それは「記録する方法」が見つかってからです。
カメラ・オブスクラの時代、人々は映し出された像を手でスケッチしていました。ところが19世紀、ダゲレオタイプという銀板写真の技術が登場し、「光そのものを焼きつける」ことが可能になります。これが、いわゆる最初の“写真”です。
以後、乾板→フィルム→デジタルセンサーと、記録媒体はどんどん進化していきました。でも実は、カメラ本体がやっていることはずっと同じ。「光をコントロールして、何かに記録する」──それだけです。
デジタルカメラも、ただ記録方式がフィルムからセンサーに変わっただけ。むしろセンサーの構造を見れば、銀塩写真と同じように「光の強さによって反応する」ようになっており、本質的な仕組みは変わっていません。
レンズ交換式?ミラーレス?それって全部“派生”
現代のカメラはレンズ交換式だったり、ミラーレスだったり、いろんな機能が付いていますよね。でも、それらの多くは「より便利に・より正確に撮るための工夫」にすぎません。
たとえば、AF(オートフォーカス)もピントを自動で合わせる機能ですが、「焦点を合わせる」という行為自体は昔から変わりません。手ブレ補正も、ぶれてしまう問題を減らすだけで、原理は同じです。
つまり、いくら高機能になっても、カメラという装置の“やること”はひとつ。
「光を像として記録する」
これだけです。
スマホカメラも一眼レフも、GoProも監視カメラも、すべてこのシンプルな原理に従っています。
だから面白い、だから深い
カメラの仕組みがずっと変わらない──それは「シンプルすぎて飽きる」のではなく、「だからこそ深い」ということ。
たとえば、同じカメラとレンズを使っても、撮る人によって写真は全然違います。なぜかというと、「何に光を当てるか」「どの角度から撮るか」「どんな露出にするか」──選ぶ要素はすべて人間側にあるからです。
表現の自由が生まれるのは、このシンプルさゆえ。光を扱うという極めて基本的な行為の中に、無限の工夫と発見があるのです。
また、歴史を知ると機材の捉え方も変わります。高価なカメラに目が行きがちですが、仕組みが分かっていれば、手持ちの道具でも十分に写真は撮れるし、逆に「この機能は何のためにあるのか」と考えるクセもつきます。
カメラの原点に立ち返ってみよう
カメラは確かに進化しました。でも、やっていることは200年前とまったく同じ。「光を絵にする箱」であるという本質は、今も昔も変わりません。
つまり、“カメラの構造を理解すること”は、写真の原点に触れることでもあるのです。
もしあなたが今、撮影に少し慣れてきて、次のステップを探しているなら──ぜひ一度、原点に立ち返ってみてください。
次にシャッターを押すとき、そのカメラが“昔と同じ原理で”像を記録していることを思い出すだけで、世界の見え方がちょっと変わるかもしれません。